ちょうどいい間合い

建築と社会 7月号(日本建築協会発行)の「まち 建築 ひと」に寄稿させていただきました。

(「建築と社会」2020年7月号4頁 転載)

私の今のお仕事は、個人住宅や店舗、部分的な改修工事や、家具、etc。
ちょっとした相談ごともお受けしています。
大きな公共施設の設計や、都市開発のような仕事ではありません。
そんな私の仕事を知ってくださっている方からすると、意外と思われるかもしれませんが、どんな設計のお仕事に対しても、意識の先に「まち」があります。
クライアントの個々のご要望をカタチにすることとはまた別の、そのもっと源の部分です。
それは、クライアントにとって関係のないことのように聞こえるかもしれませんが、結果的にクライアントにとって「ちょうど良い」環境を整えることにつながると思うのです。
まちづくりといっても大きなことではありません。
ささやかな設計行為の積み重ねです。
そんなことを書かせていただける機会でした。

以下、テキストと写真です。

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ちょうどいい間合い
土圭屋/sanrokucoffee(高知市)

高知に店を構える友人から相談を受けた。「アプローチを考えてほしい。」
元は文房具店だったという空家が、交差点に位置していた。そこに手づくり時計工房と珈琲店、2つの店舗を構えると言う。歩道から客人がダイレクトに入るのではなく、少し「間」をとりたいということだった。限られた面積の中で、収益面積をけずり、「アプローチ」をもつことの意味。とても魅力的な依頼だった。既存の状態はというと、歩道側が全面シャッターで開放されており、間に数本の柱があるのみだった。そこに補強を兼ねて壁を設け適度に仕切りつつ、歩道に沿って幅1.2mのアプローチ空間を準備した。モルタルのプランターを並べ、植物で柔らかに仕切る。客はこのアプローチを進み、それぞれの店舗へむかう。この「ちょうどいい」間合いが、まちと店、店と人の良好な関係を築いてほしい。

ささやかな接点
季節といなり 豆椿(箕面市)

大阪で設計した店舗は、春には桜並木が美しい通りに面していた。外壁にはいつかの改修で壁で塞がれたのであろう、使われなくなったアルミサッシが残っていた。これを塞ぐことも考えたが、このガラス障子の奥に鏡をはめて掲示板として使う提案をした。「いなりを通して季節と出合う」をテーマとする店なので、店が開いている時はもちろん、閉まっている時も、道行く人が鏡に映るまちの季節に、ふと気づくきっかけがつくれたらよいなと考えた。その提案にのってくれた店主は、月ごとに、季節の花が描かれたカレンダーを貼り、メニューや今月の予定を伝えている。まちの人との間接的な接点をもつ。このぐらいのつながりの心地よさもあるのではないか。ささやかなきっかけが、季節と人、人と店のコミュニケーションにつながると嬉しい。